KPMG・クニエ創設の立役者が描く、原点回帰のピュアコンサル―全社員出資型ファームの挑戦に迫る/CEO勝俣利光インタビュー(2)
2025年05月15日 22:14
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ショーリ・ストラテジー&コンサルティング株式会社 CEO 勝俣利光様 インタビュー/KPMG・クニエ創設の立役者が描く、原点回帰のピュアコンサル―全社員出資型ファームの挑戦に迫る
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自己成長、高報酬…コンサル業界に広がる違和感から生まれた原点回帰
遠藤
「お客さまや社会を良くするために」という姿勢は、まさにコンサルティングの原点だと思います。その原点を改めて掲げようと考えられた背景にはどんな問題意識があったのでしょうか。
勝俣様
昨今のコンサル業界では、特に自己成長や高収入といった“自分ファースト”なメリットばかりに注目が集まりすぎており、その現状に違和感があります。もちろん、そうした成果が得られることもありますが、それはあくまでも結果であって、目的ではないはずです。
私にとって、コンサルという職業の本質は、本来「お客さまや社会を良くする」ためにあるもの。偽善ではなく、職業として当然の立ち位置であり、だからこそ、今一度その原点に立ち返る必要があると感じているのです。
遠藤
そうした現状の構造から距離を置くために、独立ファームというかたちを選ばれたのですね。
勝俣様
そうですね。多くのコンサルティングファームは親会社を持っており、そこからの意向や期待が事業運営に少なからず影響します。たとえば、親会社がIT企業であればIT領域を優先せざるを得ない場面も出てきますし、外資系であれば本国の戦略に従う必要がある。そうなると、個々のコンサルタントがピュアな思いで社会やお客さまの課題に向き合うことが難しくなってしまう。そういった構造から距離を置き、私どもの意思で事業の方向性を定め、コンサルティングの原点を追求したいと考えたのです。
遠藤
中長期の計画として、上場も目指されていると伺いました。ただ、上場すれば今度は株主の意向に応える必要も出てくるかと思いますが、その点はどのようにお考えですか。
勝俣様
確かに、上場すれば新たに株主の意向が生じるのは事実です。ただ、私どもにとって上場は「目的」ではなく「手段」。もともと上場は資金調達の手段として設計されたものですし、私どももグローバル展開に向けて一定の資本が必要になることは想定しています。ですから、必要な資金を安定して確保するための選択肢の1つとして捉えている、というのが正確なところです。
加えて、当社では社員全員が現物株を保有できる仕組みを整えています。よくある「持ち株会」のように間接的に株を持つのではなく、誰もが自分の名義で直接株を持てるようにしています。もちろん職位によって保有できる株数には違いがありますが、バックオフィスメンバーや新入社員、海外メンバーも含め全員が会社の株主として関われる、そんな組織作りを目指しています。
遠藤
とてもユニークな取り組みですね。そこに出資パートナーの存在も加わってくるかと思いますが、どのように捉えていらっしゃいますか。
勝俣様
現在、当社の筆頭株主は社員ですが、安定株主として住友商事様に、株式の20%をご出資いただくことが決まっています。ただし、私ども同社のグループ会社を目指しているわけではなく、あくまでも「安定株主」かつ「共にビジネスを作るパートナー」という位置づけです。
住友商事のような総合商社は、自らがハブとなってサプライチェーン全体を構築・強化していく存在です。そこに私どものコンサルティング機能が加わることで、住友グループのお客さまに対して、より高度なサービス提供が可能になります。
特に今回連携しているのは、住友商事のDX事業部。今後は同社、同グループのお客さま向けにDX戦略の立案や新規事業の立ち上げ支援などのテーマで、共同プロジェクトを進めていく予定です。
遠藤
「戦略×DX」という領域は、御社の中核テーマでもありますね。
勝俣様
そうですね。私どもの主力ソリューションの1つがDX戦略であり、売り上げ構成比としてかなり大きな割合を占めていくと考えています。
また、組織作りの面では、各領域のプロフェッショナルを積極的に招き入れます。たとえば、私自身が得意としてきたサプライチェーン領域では、KPMG以来の仲間や部下たちに声をかけチームを構築しています。会計領域についても、かつてアンダーセンやべリングポイントで活躍していた著名な会計チームのリーダーが参画しており、会計チームの立ち上げを担っていただいています。
戦略やM&Aの分野では、マッキンゼー出身の有力なコンサルタントがジョイン予定で、DX戦略チームのリードを任せる構想です。また、デロイト出身の実力者を迎えて戦略チームの立ち上げを進めています。
今後は、PwCやKPMGといった大手コンサルティングファームのリーダー経験者たちも加わる予定です。こうした各分野のリーダーは管理職としてだけではなく、実際に現場でプロジェクトをする「マイスター」として一線で活躍するプロフェッショナル集団としてチームを組成します。
社員全員が出資者になり「経営者マインド」を醸成
遠藤
御社は「全社員の出資による、社員のための会社」というユニークな体制を取られています。この組織形態を採用された背景と、狙いを教えてください。
勝俣様
私どもはベンチャー企業として、「会社を興す」くらいのマインドを全社員に持ってほしいと考えています。社員が出資する額は少額からで構いません。「自ら出資する」という行為が、社員を“当事者”に変える力を持っていると思うのです。
多くの大企業のサラリーマンは、どうしても「会社が何をしてくれるか」に期待しがちです。「これが足りない」「こうしてほしい」と、会社に対する要求が中心になる。しかし、出資している立場になると視点が変わるのです。「会社をどう守り、どう伸ばすか」を自然と考えるようになる。交渉の場でも、“上司と顧客のどちらが厳しいか”で判断するのではなく、「会社にとって何が正しいか」という軸で行動できるようになるのです。これはまさに経営者の視点です。
遠藤
「起業家マインド」を育む組織設計ですね。
勝俣様
その通りです。だから私は「10年で自分も起業できる会社」を掲げているのです。私自身、KPMG時代にマネジャーとして経営的な立場で仕事をした経験が、経営者マインドを育む大きな土台になりました。
集まってきている幹部メンバーも、出世欲というより“人を育てたい”という気持ちが強い人ばかりです。若手の方々は、リーダーとして育ち社内で活躍していただくも良し、将来的に独立してくださっても良し。そうした前提で、若手の教育にはかなり力を入れています。
遠藤
処遇面でも、かなりユニークな制度設計をされているとか。
勝俣様
はい。当社は利益率の高い“変革の上流領域”に特化しており、IT実装やBPOなどの労働集約的な領域は手がけていません。組織構造もピラミッド型ではなく、幹部層が少ない“文鎮型”にしています。これは、少数の幹部が多くの利益を報酬として持っていく構造ではなく、若手にしっかり報酬を還元できるようにするためです。
さらに、他社に比べて給与水準も高めに設定しています。優秀であれば、早期に年収1,000万、2,000万円といった水準を目指せる環境にします。それに加えて、株も保有できます。給与・賞与・株という3本柱で、社員の所得向上を実現したいと考えています。
一方で、幹部には主に給与ではなく“株主”としての立場で報酬を得ていただきます。給与を意図的に抑えているわけではありませんが、幹部にはむしろ株式というかたちで経営への責任を負っていただき、リターンを得ていただくという発想ですね。
遠藤
働き方はいかがですか。
勝俣様
創業フェーズだからこそ柔軟な制度設計が可能です。たとえば、在宅勤務や残業ゼロ、週休3日など、多様な働き方を選べるようにします。育児や介護、地方勤務など、ライフステージに合わせて働ける環境を整備したいと考えています。
これは途中から制度変更しようとしても、現場のリーダー側から反対が出て難しいものなのです。最初から「そういう制度のある会社」として設計しておくことで、働く人もマネジメントする側も、その前提で参画できる。だから創業の機会こそが導入チャンスなのです。
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